iDeCo改正に伴う資産形成プランへの影響

2023/02/03

昨今、老後の資産形成に対する意識がますます高まってきています。

金融広報中央委員会が公表する「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」令和3年調査の結果によると、各世代の家計における金融資産の保有目的として大きな割合を占めている項目が「老後の生活資金」でした。

今や終身雇用制度は崩壊し、独立した生き方を選ぶ人も増え、より良い人生を過ごすために多くの金融資産を保有したいと考える人も多いのではないでしょうか。

その有効な手段の一つである「iDeCo」ですが、10月の新たな制度改正を受け、加入しやすくなりました。

iDeCo制度を詳しく知らない方も、この機会に制度概要と改正ポイントを確認しておきましょう。

iDeCoとは

iDeCoは2001年に開始された任意加入の個人型確定拠出年金制度です。有効に活用すれば、税制優遇措置などを受けることができます。

確定拠出年金制度には企業型と個人型があり、資産運用はいずれも個人が行いますが、運用資金の拠出を行う主体に違いがあります。

企業型の確定拠出年金制度(企業型DC)は企業の退職金制度として運用されることが多く、従来は企業が運用していた退職金を個人に拠出する代わりに、個人が自己責任で資産運用を行わなければなりません。

企業型と個人型のそれぞれに拠出金額の上限があり、iDeCo加入にもいくつかの制限があります。

しかし、他の制度と同様に、iDeCo制度も社会情勢や個人の資産形成の動向に合わせて改正されてきました。

まずは、2022年度に行われた改正の内容と背景をみてみましょう。

2022年度に実施されたiDeCo改正まとめ
今年度に実施された改定の概要を以下の表にまとめています。

【図表1】iDeCo制度改正の概要

改正の年月 改正ポイント 背景
2022年4月 資金の受給開始年齢が70歳から75歳に拡大され、加入者が60歳から75歳の間で自由に受給開始日を選べるようになる ・長期的かつ柔軟に確定拠出年金を活用することができる
・長期化する高齢期の資産形成の拡充が図られる
2022年5月 制度に加入できる年齢の上限が60歳から65歳に引き上げられ、60歳以上65歳未満で勤続する会社員も制度へ新たに加入できるようになる
2022年10月 企業型確定拠出年金に加入している会社員や公務員の加入条件が緩和される

※出典:https://www.jis-t.co.jp/notification/pdf/20200605.pdf

4月の改正によって、公的年金の受給開始日や退職時期などを考慮した資産運用が可能となり、より様々な選択が可能になりました。

また、5月の改正では、高齢者の方を対象に人生100年時代に備えた資産運用の幅が広がりました。

10月に行われた改正ではどのような影響が見込まれるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

10月の改訂ポイント「iDeCoに加入できる対象者が増える」

改定のポイントを一言でいうと、制限が緩和されたことで「iDeCoに加入できる対象者が増える」です。

従来のiDeCoでも国民保険第二号被保険者である会社員が対象者に含まれていましたが、企業型DCの加入者である場合は、

(1)規約でiDeCo加入が認められていること
(2)企業型DCの企業による拠出金額の上限が月額5万5,000円から月額3万5,000円に引き下げられていること

以上の2つを満たす会社員のみが対象者でした。

そのため、iDeCo制度への加入を具体的に検討している人、あるいは加入したいと考えていたのに従来の上限によって加入が難しかった人にとっては朗報となるかもしれません。

今回の改正で誰が加入対象となるのか、緩和された条件と具体的な影響を実際に見ていきましょう。

あなたは新たな加入条件を満たしていますか

まずは、企業型DCに加入している場合、各月拠出でなければいけません。年単位で拠出を受けている場合は対象者となりませんのでご注意ください。

次に、iDeCoに加入する前に、現在の企業型DCで受けている拠出額を確認しましょう。

iDeCoの月額拠出限度額が2万円、最低拠出額が5,000円となっているため、企業型DCの拠出額は5万円以内である必要があります。

確定給付型年金(企業型DB)のみ、企業型DBと企業型DCの両方に加入している場合は、iDeCoの月額拠出限度額は1万2,000円となり、企業型DCの拠出額との合計額が2万7,500円以内である必要があります。

最後に、もしあなたが60歳以上65歳未満の方であるなら、

(1)公的年金を65歳前に繰上げ請求した
(2)iDeCoの老齢給付金をすでに受給したことがある、あるいは受給申請をした

以上の2点に該当しないか、確認しておきましょう。

あなたはマッチング拠出を利用していますか

企業型DC制度には「マッチング拠出」(会社が拠出する掛金に加えて、加入者本人が掛金を上乗せして拠出することができる制度)があり、それを利用している場合、iDeCoを利用することができません。

そこで、マッチング拠出とiDeCoのどちらを利用した方が良いか検討します。

従業員の月額拠出限度額である5万5,000円を上限として、「企業型DCのみの場合」と「企業型DCと企業型DBの併用の場合」それぞれで、「事業主掛金+iDeCo」もしくは「事業主掛金+マッチング拠出金額」を比較して、拠出金額が一番大きくなる組み合わせを確認しましょう。

また、マッチング拠出とiDeCoのそれぞれで加入の際に注意しておきたいポイントがあります。

マッチング拠出では、口座管理手数料を企業が負担する一方、運用商品のラインナップを自分で選ぶことができず、指定された商品で運用を行うことになります。

iDeCoでは、ご自身で運用商品を自由に選べる一方、口座管理手数料をご自身で負担する必要があります。

2つの制度のメリットとデメリットを考慮して、最終的に判断すると良いでしょう。

老後の資産形成を見据えたとき、今の拠出額は十分ですか

企業型DCといった私的年金制度を利用している人は現在の拠出額を確認し、老後の資産形成に十分な金額であるか今一度、確認しましょう。

以下の方の受給開始年齢までのiDeCo積立金は、約1,200万円になります。

・年齢:30歳
・職業:会社員(企業型DCのみ利用)
・年収:500万円
・毎月の掛金:2万円
・運用利回り:2%
・受給開始年齢:65歳
・配偶者:あり
・扶養家族:なし

65歳から20年間で年金を受け取るとすると、年額約60万円、月額約5万円を受給できます。

たとえば、他は同じ条件で掛金だけ1万円に減額すると、年額約30万円、月額約2万5,000円となります。

このように拠出額が将来の資産形成に大きく影響を与えるため、現在の家計の状況を踏まえつつ、余裕のある範囲で掛金を増やすことも考えてみましょう。

なんとなく老後が心配だから加入しておこうと考えている方も、実際に老後に必要な額を試算し、その金額を資産運用で得られるような計画を立てることで、安定した老後を過ごせる可能性が高まります。

今後の改正内容

2024年12月に、企業型DBを併用する人のiDeCoと企業型DCの拠出限度額が変更されます。

iDeCoの拠出可能額は、5万5,000円から他制度掛金相当額(企業型DB等)と企業型DC事業主掛金額を差し引いた額となり、上限が2万円に引き上げられます。

企業型DCの拠出限度額は、現在の一律2万7,500円から、企業型DBの給付金額に応じて企業ごとに決定される仕組みへ変更されます。

10月の改正では、企業型DCに加入している人の選択肢が広がった側面が強いですが、2024年の改正では企業型DBに加入する人の選択肢が増えるような形になります。

さいごに

10月のiDeCo改正により、多くの会社員が「iDeCo拠出月額2万円」かつ「企業型DC拠出額との合計が月額5万5,000円の範囲内」で、iDeCoに加入できるようになりました。

今後のiDeCo改正では拠出限度額が引き上げられるため、資産運用の選択肢がさらに増えることになりそうです。

iDeCoへの加入を検討するタイミングとしては、今は絶好の時期なのかもしれません。

老後の資金形成に向けた選択肢の一つとして、iDeCoも活用していきましょう。

 

<執筆者>

三上  諒子(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大阪市立大学商学部学士課程修了。
学生時代にESG投資の有効性に関する研究を行う。
主にESG・サステナビリティ領域の業務に従事、現在は企業のサステナビリティ・ガバナンス構築に向け活動中。
地球のサステナビリティには最終的に消費者の力が必要と考え、消費者行動に影響を与えるファイナンシャルプランナーを目指す。

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