人生100年時代とも言われる昨今、定年退職後の人生が長くなる傾向にあります。退職後の収入といえば年金をまっさきに思い浮かべる人も多いでしょう。
一方で、よりよい生活を送るため、退職後にも働こうと考えている方もいらっしゃると思います。しかし、年金以外の収入額によっては年金の受取額が減る場合があります。
この記事では、定年退職を数年後に控えた陵介(リョウスケ:60歳)を例に、働きながら年金を受け取る場合の注意点について考えてみたいと思います。
年金を受け取りながら働く、在職老齢年金
陵介は、趣味や仲間との付き合いが楽しく、仕事をしている時間が充実しています。できれば定年後も仕事をして、今のような生活を続ける資金を得たいと考えています。そんな陵介に年金定期便が届きました。
年金は65歳から受け取るとしても、仕事が楽しいし、定年後も70歳位まで働けるといいな。
年金だけでは収入も不安だしな。
リタイア後のお金のことで悩んでいるの?だったらFPの僕にお任せだよ!
まあ、いいか。陵介だよ、よろしく。
でも、仕事をしたいし、お金も欲しいから、70歳くらいまでは働きたいんだ。
今の仕事の取引先から声をかけてもらっているんだ。今の会社の再雇用制度も気になるんだけど、給与がちょっとね。
給与が不満なの?
転職だと月収35万円位、再雇用だと月収25万円位。ボーナスもなくなるみたいだし。
65歳からは年金が入るから少し良くなるかな。
それと、年金を受け取るようになると給与よりは増えるけど、収入によっては年金が減っちゃう場合があるよ。
収入と老齢厚生年金の合算が月平均47万円を超えると老齢厚生年金部分が減っちゃうんだ。
老齢基礎年金は変わらないんだけどね。
ちなみに、働きながら受け取る老齢厚生年金を「在職老齢年金」っていうよ。
在職老齢年金で受給額は減額?
せっかく働いても年金が減るのは悔しいな。
どのくらいになるの?
受給年金の予測額はわかる?
はい、これ。
じゃぁ、年金定期便をもとに次の金額で計算するね。
<給与予測>(65歳時点)
・転職の場合 平均月収35万円
・再雇用制度利用の場合 平均月収25万円
<年金情報>(65歳時点)
・基礎年金 年額77万7,800円
・厚生年金 年額148万6,400円
ただ、この収入から社会保険料や所得税が引かれるから、受け取る金額はもうちょっと少なくなるよ。
表1 転職した場合と再雇用制度を利用した場合の月額収入予測
転職した場合 | 再雇用制度を 利用した場合 |
|
月給予測(円) | 350,000 | 250,000 |
年金定期便の 厚生年金予測額(円) |
123,300 | 123,300 |
年金定期便の 基礎年金予測額(円) |
64,800 | 64,800 |
厚生年金減額分(円) | 1,650 | 0 |
月額収入予測(円) | 536,450 | 438,100 |
本文記載のモデルケースをもとに、FPサテライトにて作成
この金額なら誤差かな。
ちなみに、働いている間は厚生年金保険に加入することになるんだ。
在職老齢年金で繰り下げ受給すると?
将来少しでも年金を多く受け取りたいし。年齢が上がってから受け取った方が年金は増えるよね?
例えば、年金を受け取る年齢を70歳まで遅らせるといくらになる?
受け取る時期を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ加算されるんだ。
だから70歳だと、次のように計算して、42%増えるね。この倍率は受け取れるはずだった金額にかけるんだ。
70歳から年金受給する場合の加算倍率:
0.7%×12ヵ月×5年=42%
総額の42%増じゃなくて、受け取れるはずだった年金の42%が増額されるから……。
在職老齢年金で年金が減額された場合、増加率は減額された金額にかかるんだ。
だから、転職した場合と再雇用制度を利用した場合の老齢厚生年金予測額をもとに、月ごとの受取額を計算するとこうなるよ。
ちなみに、老齢基礎年金は減額されないから、70歳まで繰り下げると42%増だよ。
転職した場合の繰り下げ老齢厚生年金予測額:
12万3,300円+12万1,650円×42%=17万4,393円
再雇用制度を利用した場合の繰り下げ老齢厚生年金予測額:
12万3,300円+12万3,300円×42%=17万5,086円
老齢厚生年金の繰り下げ受給額:
再計算した老齢厚生年金受給額+繰り下げ加算分
老齢厚生年金の受取額が変わるから、再計算するんだ。
リタイア後に個人事業主になった場合の老齢厚生年金は?
ところで、減額されるのは老齢厚生年金と言っていたね?
それなら、独立すれば年金を減額されないと思っていいのかな?
ただ、国民健康保険料の負担や、収入によっては所得税がかかるから、この点は注意が必要かな。
でも、年金だけに比べれば、収入があった方が自由になる金額が大きいし。
ただ、仕事の収入がなくなった後の生活レベルも意識してね。
急に年金だけで生活できるようになるのは難しいから。
リタイア後の収入計画は多角的に
でも、老齢厚生年金の減額や税金も視野に入れて考えておかないといけないんだね。
仕事をしている今のうちに知ることができてよかった。
それと、最終的には年金だけが収入になるから、年金で生活できるようにシフトしていかないといけなさそうだね。
<執筆者>
黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大学院修了後、IT業界でセールスエンジニア・営業企画として働き、出産を機に退職。
家計を守る立場になり、お金との向き合い方を見つけるためFP資格を取得。
現在は独立系FP法人であるFPサテライト株式会社所属FPとして活動中。
3人の子育て中の母でもある。