年金が給与額によって減ることがある?在職老齢年金の注意点

2023/08/31

人生100年時代とも言われる昨今、定年退職後の人生が長くなる傾向にあります。退職後の収入といえば年金をまっさきに思い浮かべる人も多いでしょう。

一方で、よりよい生活を送るため、退職後にも働こうと考えている方もいらっしゃると思います。しかし、年金以外の収入額によっては年金の受取額が減る場合があります。

この記事では、定年退職を数年後に控えた陵介(リョウスケ:60歳)を例に、働きながら年金を受け取る場合の注意点について考えてみたいと思います。

年金を受け取りながら働く、在職老齢年金

陵介は、趣味や仲間との付き合いが楽しく、仕事をしている時間が充実しています。できれば定年後も仕事をして、今のような生活を続ける資金を得たいと考えています。そんな陵介に年金定期便が届きました。

陵介
あと数年で定年退職かぁ。

年金は65歳から受け取るとしても、仕事が楽しいし、定年後も70歳位まで働けるといいな。

年金だけでは収入も不安だしな。

やっほー、たまるんだよ!

リタイア後のお金のことで悩んでいるの?だったらFPの僕にお任せだよ!

たまるん
陵介
FPのたまるん?って、シロクマ!?
まぁまぁ、リタイア後のお金のことで悩んでいるんでしょ?よかったら話してみてよ!
たまるん
陵介
うーん、悩んでいるわけではないけど……。

まあ、いいか。陵介だよ、よろしく。

了解、陵介!よろしくね。
たまるん
陵介
うちの会社は定年退職が65歳だから、5年後に定年退職になるんだ。

でも、仕事をしたいし、お金も欲しいから、70歳くらいまでは働きたいんだ。

どんな仕事をするか考えているの?
たまるん
陵介
まだ決めていないけど、転職か今の会社の再雇用かな?

今の仕事の取引先から声をかけてもらっているんだ。今の会社の再雇用制度も気になるんだけど、給与がちょっとね。

働くところがあるのって、いいね!

給与が不満なの?

たまるん
陵介
今より減ってしまうからね。

転職だと月収35万円位、再雇用だと月収25万円位。ボーナスもなくなるみたいだし。

65歳からは年金が入るから少し良くなるかな。

リタイア後だと給与が激減するケースが多いよね。

それと、年金を受け取るようになると給与よりは増えるけど、収入によっては年金が減っちゃう場合があるよ。

たまるん
陵介
えっ?年金って減るの?
そうなんだ。

収入と老齢厚生年金の合算が月平均47万円を超えると老齢厚生年金部分が減っちゃうんだ。

老齢基礎年金は変わらないんだけどね。

ちなみに、働きながら受け取る老齢厚生年金を「在職老齢年金」っていうよ。

たまるん

在職老齢年金で受給額は減額?

陵介
在職老齢年金?初めて聞いたよ。

せっかく働いても年金が減るのは悔しいな。

どのくらいになるの?

転職と再雇用で在職老齢年金の予測額を計算してみようか?

受給年金の予測額はわかる?

たまるん
陵介
年金定期便を見てくれる?

はい、これ。

ふむふむ。

じゃぁ、年金定期便をもとに次の金額で計算するね。

たまるん

<給与予測>(65歳時点)
・転職の場合 平均月収35万円
・再雇用制度利用の場合 平均月収25万円

<年金情報>(65歳時点)
・基礎年金 年額77万7,800円
・厚生年金 年額148万6,400円

たまるん
給与と年金の月額合算予測はこちら。

ただ、この収入から社会保険料や所得税が引かれるから、受け取る金額はもうちょっと少なくなるよ。

表1 転職した場合と再雇用制度を利用した場合の月額収入予測

  転職した場合 再雇用制度を
利用した場合
月給予測(円) 350,000  250,000 
年金定期便の
厚生年金予測額(円)
123,300  123,300 
年金定期便の
基礎年金予測額(円)
64,800  64,800 
厚生年金減額分(円) 1,650 
月額収入予測(円) 536,450  438,100 

本文記載のモデルケースをもとに、FPサテライトにて作成

転職すると、老齢厚生年金が月額1,650円減る予測か。

この金額なら誤差かな。

陵介
たまるん
そうかもね。

ちなみに、働いている間は厚生年金保険に加入することになるんだ。

在職老齢年金で繰り下げ受給すると?

うーん、それなら年金の受け取りを遅らせようかな?

将来少しでも年金を多く受け取りたいし。年齢が上がってから受け取った方が年金は増えるよね?

例えば、年金を受け取る年齢を70歳まで遅らせるといくらになる?

陵介
たまるん
確かに、年金を受け取る年齢を上げれば、受け取れる年金額は増えるよ。

受け取る時期を1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ加算されるんだ。

だから70歳だと、次のように計算して、42%増えるね。この倍率は受け取れるはずだった金額にかけるんだ。

70歳から年金受給する場合の加算倍率:
0.7%×12ヵ月×5年=42%

42%増!ということは、今の年金受取額予測は総額で月額18万8,100円だから、26万7,102円になるんだね。
陵介
たまるん
いや……。

総額の42%増じゃなくて、受け取れるはずだった年金の42%が増額されるから……。

在職老齢年金で年金が減額された場合、増加率は減額された金額にかかるんだ。

ここでも減額の影響がでるのか。
陵介
たまるん
そうなんだ。

だから、転職した場合と再雇用制度を利用した場合の老齢厚生年金予測額をもとに、月ごとの受取額を計算するとこうなるよ。

ちなみに、老齢基礎年金は減額されないから、70歳まで繰り下げると42%増だよ。

転職した場合の繰り下げ老齢厚生年金予測額:
12万3,300円+12万1,650円×42%=17万4,393円

再雇用制度を利用した場合の繰り下げ老齢厚生年金予測額:
12万3,300円+12万3,300円×42%=17万5,086円

まあ、確かに減額された分減っているけど、月額700円位だね。
陵介
たまるん
ただ、正確な老齢厚生年金の繰り下げ受給額は次の式で計算するのね。

老齢厚生年金の繰り下げ受給額:
再計算した老齢厚生年金受給額+繰り下げ加算分

再計算した老齢厚生年金受給額?
陵介
たまるん
年金を受け取りながら働くと、老齢厚生年金が増えるっていう話をしたの、覚えている?

老齢厚生年金の受取額が変わるから、再計算するんだ。

厚生年金の加入期間が延びるからってことだったね。
陵介
たまるん
そう!

リタイア後に個人事業主になった場合の老齢厚生年金は?

なるほど。

ところで、減額されるのは老齢厚生年金と言っていたね?

それなら、独立すれば年金を減額されないと思っていいのかな?

陵介
たまるん
フリーランスで働くとか個人事業主で仕事をするなら、老齢厚生年金の減額はないよ。

ただ、国民健康保険料の負担や、収入によっては所得税がかかるから、この点は注意が必要かな。

個人事業主でも、年金と収入が全部自由になるわけではないんだね。
陵介
たまるん
そうだね。

でも、年金だけに比べれば、収入があった方が自由になる金額が大きいし。

ただ、仕事の収入がなくなった後の生活レベルも意識してね。

急に年金だけで生活できるようになるのは難しいから。

リタイア後の収入計画は多角的に

退職後に自由になるお金を増やすには、単純に収入を増やせばいいのかと思っていたよ。

でも、老齢厚生年金の減額や税金も視野に入れて考えておかないといけないんだね。

仕事をしている今のうちに知ることができてよかった。

それと、最終的には年金だけが収入になるから、年金で生活できるようにシフトしていかないといけなさそうだね。

陵介

 

<執筆者>

黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大学院修了後、IT業界でセールスエンジニア・営業企画として働き、出産を機に退職。
家計を守る立場になり、お金との向き合い方を見つけるためFP資格を取得。
現在は独立系FP法人であるFPサテライト株式会社所属FPとして活動中。
3人の子育て中の母でもある。

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