誰もが一度は訪れたことがあるファストフードの代名詞「マクドナルド」。
そんなマクドナルドで、お腹いっぱい食べたい時にうってつけの「ビッグマック」の価格から、各国の購買力を測る「ビッグマック指数」という経済指数をご存知でしょうか?
この記事では、ビッグマック指数とは一体どんな指数であるのか、そしてビッグマック指数を通じて日本の経済トレンドを見ていきます。
ビッグマック指数とは
以下では、ビッグマック指数とはどのようなものなのかを説明します。
ビッグマック指数の考え方
ビッグマック指数(THE Big Mac Index)は、1986年にエコノミスト誌が考案したもので、各国の通貨が適正な水準にあるかどうかを判断するための目安です。
これは購買力平価の理論に基づくもので、短期的に見たらある2つの国の同一水準の商品・サービスの価格が異なっていても、長期的に見れば為替レートは価格を等しくしていくという考え方です。
つまりは、どの国の通貨であっても通貨1単位で買えるビッグマックの個数は変わらないという意味で、これを「一物一価の法則」といいます。
上記の考え方をもとに、米国とある国のビッグマックの価格を比較し、購買力の差を測ることで、ある国の通貨がどれほど過大評価もしくは過小評価されているかを判断することができます。
ビッグマック指数の算定方法と購買力の関係
ここでは、日本のビッグマックの価格をアメリカの価格と比較してみます。
2024年8月15日現在の日本のビッグマックの価格は480円、アメリカでは各州によって価格は異なりますが2024年7月時点で$5.69とThe Economistで発表されています。
480円÷$5.69=84.36となり、為替レートが1ドル147円(2024年8月15日時点)ですので為替相場はビッグマック指数に比べて円安(言い換えると日本円は約63円程度過小評価されている)であることが分かります。
参照:マクドナルドwebサイト
The Economist ”Our Big Mac index shows how burger prices differ across borders”
2024年8月15日時点での為替レート:https://www.boj.or.jp/statistics/market/forex/fxdaily/fxlist/fx240815.pdf
ビッグマック指数を活用する際の注意点
ビッグマック指数を活用する際の注意点について説明します。
ビッグマック指数の限界
ビッグマック指数は、便利な経済指数ですが注意すべき点もあります。
ビッグマックは、各国で必ずしも同一の条件で提供されているわけではなく以下の通り各国の個別状況に左右されてしまうことに注意する必要があります。
原材料の輸送コストなど
各国の原材料の輸送費や関税のコストには、ばらつきがあります。
例えば、日本のマクドナルドで使用されている、ビーフの原産地はオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダです。
参照:マクドナルドWebサイト
上記の通り、日本はビーフを輸入に頼っているので輸送コストがかかりますし、そうではない国もあります。
税金
消費税は、国によって異なりこれもビッグマックの価格に影響を及ぼします。
消費税の高い北欧(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)では、25%ですし、一方で比較的安い台湾では5%です。
参照:国税庁
文化・宗教
また、各国独自の文化・宗教などもビッグマックの価格に影響を及ぼします。
宗教上の理由で牛肉や豚肉を食べない習慣のあるインドでは、鶏肉を使ったビッグマックが販売されているのでビッグマックの価格は自ずと低くなります。
したがって、世界各国で同一水準の商品が提供されているとは言い難いでしょう。
他の経済指標との併用の重要性
このため、ビッグマック指数を単独で使用するのではなく、他の経済指標と併用することで予測の精度が高まっていくこともあります。例として以下を挙げます。
(1)GDP(国内総生産)
ビッグマック指数は、前述の通りビッグマックの価格を比較し、ある国の通貨がどれほど過大評価もしくは過小評価されているか測ることができる指数です。
しかし、ビッグマック指数は通貨価値の影響だけではなく、各国の労働コストなどの影響も反映されるので、一般的に考えると労働コストの低い貧しい国の方が豊かな国よりもハンバーガーの価格が安くなるような現象が起きます。
上記の影響を排除するために、各国の経済の豊かさを示すGDPも参考にすることで現在の通貨の価値をより精密に示すこともできます。実際に、The EconomistでもGDPを使ったGDP調整指数も表示しています。
(2)CPI(消費者物価指数)
CPIも物やサービスの価格動向を表す指数であり、各国の物価の上昇・下降を把握できます。
ビッグマック指数だけではなく、CPIも予測材料の1つとしてはいかがでしょうか。
ビッグマックランキングが示す経済トレンド
世界ランキングと日本の位置
The Economistは、毎年1月と7月に世界各国のビッグマックの価格を比較し、ランキングを作成しています。
2024年7月のランキングによれば、スイス(+41.8%)が最も高い価格を示し、次いでウルグアイ(+24.3%)、ノルウェー(+18.9%)が続いています。
一方で、インド(-51.7%) 、エジプト(-56.6%)に続いてインドネシア(-56.8%)や台湾(-59.9%)が低い価格を示しており、各国の購買力の相違が浮き彫りになっています。
※カッコ内は米ドルに比べた過大/過小評価の割合。
日本のビッグマック指数は、2024年7月時点で-43.9%過小評価されており、中間より下位に位置しています。
参照:The Economist ”Our Big Mac index shows how burger prices differ across borders”
日本のビッグマック指数、日本の経済
(1)日本経済の現状
上記より、日本円は過小評価されており円安が進んでいることが分かります。
日本の輸出企業や訪日外国人からみると、商品やサービスが44%ほど割安ということになるので価格競争力が高まったり、訪日外国人が日本の経済に良い影響を与えたりするプラスの側面もあります。
一方で、輸入企業にとってはコスト増加の問題が発生したり個人の家計に与える悪影響も非常に大きいことが現状といえるでしょう。
(2)ビッグマック指数を活用した予測
ビッグマック指数を参考にすると日本のビッグマック指数と、為替レートが大きく乖離して円安が進んでいたとしても、長期的にはビッグマック指数に近づく形で為替レートの調整が起きることが予測できます。
まとめ
ビッグマック指数は、簡便かつユニークな経済指標として利用されていますが、その限界を理解することも重要です。
ビッグマック指数を正しく活用し経済トレンドを読み解くことで、各国の経済状況や購買力の相違を理解する手助けとなります。
みなさんも、経済トレンドを読み解く1つのツールとしてビッグマック指数を活用してみてはいかがでしょうか。
執筆者情報
永久保 広菜(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
東京都出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、大手電気通信グループの金融中核会社に入社。
海外グループ子会社向けの融資のフロント業務に従事。
家族の相続問題やアパート経営を助けられるような知識を身に着けたいという思いでFP資格を取得。
身の回りの人だけではなく、海外留学・勤務経験で培った異なる文化や環境で育った人を理解し共に問題解決していく力を生かし、当然バックグラウンドや悩みが個人で大きく異なるみなさまの「お金にまつわる悩み」を減らすことで、より幸せな人生を歩んでほしいという強い思いで情報発信をする。