投資や資産運用の世界で意思決定を行うにあたり、人々は先入観や偏見、さらに欲や恐怖といった心理的な影響を受けがちで、なかなか合理的な判断・行動ができないものです。
心理学をファイナンス分野へ応用し、金融分野におけるこのような人間の心理面の影響を分析しているのが「行動ファイナンス」です。 投資家の心の底に潜み投資の意思決定に影響を与えるさまざまな「行動バイアス」(先入観や偏見)を知り、人々の投資行動がどうして起こるかを理解しようとします。
ここでは、投資を行う際のよりよい意思決定、投資力アップにつなげていけるよう、代表的な「行動バイアス」(先入観や偏見)について、しくみや影響などをひとつずつかんたんに見ていきたいと思います。 (このシリーズは、Michael M.Pompian,著、Behavioral Finance and Wealth Management (second edition) を参考に、その内容をかんたんにお伝えしていきます)
(知っていてよかった!と思えるように・・・・)
「行動バイアス」は大きくわけて、「認知バイアス」と、「感情バイアス」に分けられます。
- 「認知バイアス」 (Cognitive Bias) は、統計的な誤認、情報分析上の誤解、記憶違いなどによって、合理的な思考からはずれた(投資)判断をもたらすもの
- 「感情バイアス」 (Emotional Bias) は、自然に生じる感情や態度によって合理的な判断を狂わせるもの
第一回目として、認知バイアスの一種である、認知的不協和バイアスについて見てみたいと思います。
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行動バイアスについて① -認知的不協和バイアス
今回は、認知バイアスの一種で、認知的不協和(Cognitive Dissonance)バイアス についてみてみます。
【バイアスの説明】
ちょっと難しいことばですが、人は自分の今までの理解と矛盾するような情報が入ってきた場合に、それを抱え不快感を覚えるような状態になりますが、これを心理学の用語で認知的不協和といいます。 この不快な状態を何とか処理してしまおうとすること、つまり元々の理解が正しかったと無理やり信じ込むことでバイアスが生じます。
例えば、あなたがあるスマホAが最も優れていると考えて購入したとします。そこに別のスマホBの方がより優れているという情報が入ってきた場合に、あなたは何とか自分が購入したスマホAの方が優れていると思い込むようにするでしょう。これが認知的不協和バイアスです。
得られた情報のうち都合の良いある一面(購入したスマホAの方が優れていることを示す一面)のみを見るようにしたり、非合理的な判断により都合よく解釈しようとしてしまうのです。
【実社会の例】
実社会の典型例としてタバコが挙げられます。
肺がんや心臓病との関連性が広く知れ渡っているにもかかわらず、長生きしたいと思う人でもタバコを吸います。
こうした人は認知的不協和を克服するために、一部の人しか病気にならないので自分は大丈夫、たくさん吸わなければ大丈夫、タバコによりむしろ他の死因はたくさんある、などと思い込むのです。
【投資判断におけるバイアスの影響例】
- 誤った投資判断をしたことを認めたくない(認めることによる不協和を避けたい)がために、本来は売却すべきであるような投資元本を割り下落している株式を損切りできずに保有し続けてしまう。
- 当初の投資判断を正当化したいがために、過去に投資をして下落した株式のナンピン買いを、追加投資する際の客観的で合理的な判断をせずに行ってしまう。
- 過去の投資判断と相反する情報を避けるようになり、新たな情報が得られているにも関わらず正しい投資判断ができなくなってしまう。
- 過去のバブル崩壊前に割高になっている株式を購入し続けた多くの投資家に見られたように、投資指標等から見える事実を無視し「今回は今までとは違う」と思って投資を続けてしまう。
【バイアスの影響度チェック】
シナリオ:
あなたは最近発売された車種Aの新車を購入し、家の前で洗車していました。通りかかった近所の人がライバル社のライバル車種Bは新車購入時にナビシステムをタダで付けているの知っていたかと聞いてきました。あたなはそれを知らなかったのですが、(購入した車にはついていない)ナビは欲しいと思っていたこともあり、車種Aの購入は間違っていたのかもしれないとも思いました。 あなたは次のどの行動をとりますか。
- 直ぐに車種比較をしている色々なウェブページをチェックし、車種Bを購入した方がよかったのか再確認する
- 洗車を続け次のように思う。「もしやり直せるとしたら、車種Bを買うかもしれない。でも、今回買った車種Aにはナビはついていないが自分は満足している」
- 車種Bについて調べようと一瞬思うが、やめて洗車を続ける。車は大きな買い物で今満足している。車種Bについて知ることで、もし車種Aの購入は間違った判断だと分かると不快だから。
選択肢3.を選んだ人は、認知的不協和バイアスの影響を強く受ける傾向があると考えらます。
「え~私まさに3番を選んでしまいました!?」
【投資行動におけるアドバイス】
本バイアスの悪影響を避け、より賢明な投資家になるためには、まずバイアスについての認識を深め、認知的不協和を無くそうとする無益な行動をとらないように努力することが必要です。
特に、認知的不協和が生じた場合に、個人の投資行動に悪影響を与える次の三つの行動パターンに陥らないようにすることを気をつけましょう。
- 信念を曲げる・・・不快感を脱する最もかんたんな方法は信念を曲げること。但し、例えば、信念をまげて「下落した株式の損切りは必ずしもしなくてもよい」などと何らかの正当化をすることで、不協和を無くし株式を保有し続けることは賢明な投資行動につながりません。
- 行動を曲げる・・・不快感を脱するためにふだん(本来)の行動を曲げてしまうこと。こうした癖がつくと、本来感じるべき不協和を感じることがなくなり、必要なときにリスク回避的な行動をとれなくなってしまう恐れがある
- 関連行動に対する認識をねじ曲げる・・・非合理的な理由づけによって、不協和を生じさせる行動についての認識をねじ曲げてしまう。今現金が必要ないので下落株式についての損切りは必要ないというような判断。 非常に危険である。
関連記事:
- 【運用】行動バイアスが与える影響を知って投資判断に生かそう①~認知的不協和バイアス~
- 【運用】行動バイアスが与える影響を知って投資判断に生かそう②~保守性バイアス~
- 【運用】行動バイアスが与える影響を知って投資判断に生かそう③~確証バイアス~
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行動ファイナス、行動バイアスについて (ご参考)
従来の経済学や投資理論の世界では、「人は完全に合理的な判断のもとで自己の利益のみを目的に行動する」ことが大前提になっています。ところが現実の世界ではそのようなことはなく、実際の投資の世界では、先入観や思い込み、短絡的な判断をもとに投資の意思決定を行うなどということが多くみられ、また、そのような行動が市場全体に大きな影響を与えているケースがみられます。
行動ファイナンスは心理学をファイナンス分野へ応用することで、こうした人々の投資行動がどのように起こるかを理解しようとしたもので、2000年3月のハイテクバブル、2008-2009年の金融危機などの際に特に注目が集まりました。 行動ファイナンスは個々の投資家レベルの行動から市場全体レベルの現象までをモデル化し解釈しようとします。すなわち
- 伝統的な経済理論における合理的な行動者から逸脱する投資家個人の行動やバイアス(先入観・偏見) (行動ファイナンスーミクロ)
- 行動ファイナンスモデルにより説明できる効率的市場仮説に対するアノマリー (行動ファイナンスーマクロ)
の検証を試みます。
ここでは「行動バイアス」について、個人投資家の投資判断に与える影響をみていきます。
行動バイアス(先入観・偏見)は、投資家の心の底に潜むもので、誤った認識にもとにした理由づけや、感情や気持ちに左右された理由づけにより導かれる非合理的な金融判断をもたらすものです。投資行動における行動バイアスの影響を理解することによって、投資家はよりよい投資結果を達成する可能性が高まると期待されます。
「行動バイアス」は大きく次の二つに分けられます。
- 「認知バイアス」 (Cognitive Bias) は、統計的な誤認、情報分析上の誤解、記憶違いなどによって、合理的な思考からはずれた(投資)判断をもたらすもの
- 「感情バイアス」 (Emotional Bias) は、自然に生じる感情や態度によって合理的な判断を狂わせるもの
バイアスの影響を理解し、克服することで、よりよい行動(投資判断など)が可能となることから、ここでは、代表的なバイアスの仕組みや影響について、順番にかんたんな説明をしています。
なお、本セクションでは米国のMichael M.Pompian,著、Behavioral Finance and Wealth Management (second edition) を参考に「行動バイアス」についてまとめています。 ご興味のあるかたは原書をお求めください。