【年金】年金給付抑制の法改正が計画されています② - わたしたちの年金受取額ってどうなるの?

2021/08/19

現在検討されている年金財源の健全化のための仕組み―マクロ経済スライド―を物価動向によらずに適用可能にする法改正について、その効果などを前回記事でみていきました。今回は、そもそも私たちの年金受取金額の将来見通しについて、厚生労働省の試算結果を基にみてみたいと思います。現状のしくみにおける見通し金額、および、今回の法改正が進んだ場合の見通しについてまとめます。

 

 前回記事 →年金給付抑制の法改正が計画されています① - わたしたちに影響ってあるの?

 

厚生労働省は、将来の厚生年金・国民年金の財政見通しとして「平成26年財政検証結果」を今年6月に公表しています。その中で各種の経済シナリオを建てて将来の試算等を行っています。それを基にまとめたものが下記になります。以下では全て、標準世帯、すなわち、会社勤めで平均的な年収を得て40年間、年金保険料を払った夫と40年間専業主婦の妻がいる世帯、をベースに考えます。

 

現状の受取額


2014年度の標準世帯の年金受取額はで以下のようにになります。

現役世代手取収入(月額) 34.8万円
標準世帯夫婦の年金額(月額) 21.8万円
標準世帯夫婦の年金額(年額) 261.6万円
所得代替率 62.7%

 

 ここで、前回記事でも出てきた所得代替率とは、年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。公的年金は、金額を固定するのではなく、一定の価値を保障しようという特徴があることから、物価や給与水準等が変化した場合に対応するために、給付開始時の現役世代の手取り収入と比べてどの程度の金額を受け取れるかというものさしを設けているものです。

 

現状では、標準世帯では、平均的な現役世代の2/3弱の水準の年金が受取れることを上記は示しています。今回の法改正案は、現制度のままだと将来この所得代替率が50%を大きく下回ってしまう可能性が高まっている中、これを少しでも改善し年金制度の維持を図ろうようというのが主な趣旨になります。

 

現行の仕組みにおける将来の年金受取額の見通し


既に2004年の年金改革において導入されているマクロ経済スライドを、現状の仕組のまま適用する場合の、厚生労働省の主要経済シナリオにおける、各年齢毎の年金受取額は以下のようになります。 (厚生労働省の「将来の厚生年金・国民年金の財政見通:平成26年財政検証結果」を基にシミュライズ作成)

 

低成長の経済シナリオ(ケースG、ケースH)において、特に若い世代の年金受給の所得代替率が大きく50%を下回り、年金が大きく目減りしているのが分かります。

 

経済ケースC (参考経済成長率0.9%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入
(月額・万円)
標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.8 249.6 60.0%
2024 55 38.1 22.3 267.6 58.7%
2029 50 41.3 23.7 284.4 57.2%
2034 45 45.1 24.9 298.8 55.3%
2039 40 49.2 25.9 310.8 52.7%
2044 35 53.7 27.4 328.8 51.0%
2049 30 56.6 29.9 358.8 51.0%
2054 25 64.0 32.7 392.4 51.0%

(注1)本ケースは物価上昇率1.6%、賃金上昇率1.8%、運用利回り3.2%、参考経済成長率0.9%を想定。シナリオ詳細については、シミュライズ記事をご参照。

 

経済ケースE (参考経済成長率0.4%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入
(月額・万円)
標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.7 248.4 59.7%
2024 55 38.1 22.2 266.4 58.3%
2029 50 40.4 22.9 274.8 56.8%
2034 45 42.9 23.6 283.2 54.8%
2039 40 45.8 23.9 286.8 52.3%
2044 35 48.8 24.7 296.4 50.6%
2049 30 52.0 26.3 315.6 50.6%
2054 25 55.4 28.0 336.0 50.6%

(注1)本ケースは物価上昇率1.2%、賃金上昇率1.3%、運用利回り3.0%、参考経済成長率0.4%を想定。シナリオ詳細については、シミュライズ記事をご参照。

 

経済ケースG (参考経済成長率 ▲0.2%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入
(月額・万円)
標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.8 249.6 59.9%
2024 55 37.1 21.2 254.4 57.3%
2029 50 38.7 21.1 253.2 54.4%
2034 45 40.6 21.1 253.2 51.9%
2039 40 42.7 21.0 252.0 49.3%
2044 35 44.8 21.0 252.0 46.8%
2049 30 47.1 21.1 253.2 44.7%
2054 25 49.5 21.3 255.6 43.0%

(注1)本ケースは物価上昇率0.9%、賃金上昇率1.0%、運用利回り2.2%、参考経済成長率▲0.2%を想定。シナリオ詳細については、シミュライズ記事をご参照。

 

経済ケースH (参考経済成長率▲0.4%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入
(月額・万円)
標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.8 249.6 59.9%
2024 55 37.1 21.2 254.4 57.3%
2029 50 38.2 20.8 249.6 54.4%
2034 45 39.4 20.2 242.4 51.1%
2039 40 40.8 19.6 235.2 47.9%
2044 35 42.3 19.0 228.0 44.9%
2049 30 43.8 18.4 220.8 42.1%
2054 25 45.3 17.9 214.8 39.5%

(注1)本ケースは物価上昇率0.6%、賃金上昇率0.7%、運用利回り1.7%、参考経済成長率▲0.4%を想定。シナリオ詳細については、シミュライズ記事をご参照。

 

 

今回の法改正案の仕組みにおける将来の年金受取額の見通し


続いて、今回の法改正案である、物価・賃金の伸びが低い場合でも、マクロ経済スライドによる調整がフルに発動される仕組み、を適用した場合の、厚生労働省の主要経済シナリオにおける、各年齢毎の年金受取額は以下のようになります。(厚生労働省の「将来の厚生年金・国民年金の財政見通:平成26年財政検証結果」を基にシミュライズ作成)

 

経済ケースC (参考経済成長率0.9%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入(月額・万円) 標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.9 250.8 60.0%
2024 55 38.1 22.3 267.6 58.7%
2029 50 41.3 23.7 284.4 57.2%
2034 45 45.1 24.9 298.8 55.3%
2039 40 49.2 25.9 310.8 52.7%
2044 35 53.7 27.5 330.0 51.2%
2049 30 56.6 30.0 360.0 51.2%
2054 25 64.0 32.8 393.6 51.2%

 

経済ケースE (参考経済成長率0.4%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入(月額・万円) 標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.9 250.8 60.0%
2024 55 38.1 22.3 267.6 58.7%
2029 50 40.4 23.7 284.4 57.2%
2034 45 42.9 24.9 298.8 55.3%
2039 40 45.8 25.9 310.8 52.7%
2044 35 48.8 27.5 330.0 51.2%
2049 30 52.0 30.0 360.0 51.2%
2054 25 55.4 32.8 393.6 51.2%

 

経済ケースG (参考経済成長率 ▲0.2%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入(月額・万円) 標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.6 247.2 59.4%
2024 55 37.1 21.0 252.0 56.8%
2029 50 38.7 20.9 250.8 54.0%
2034 45 40.6 21.0 252.0 51.8%
2039 40 42.7 21.0 252.0 49.2%
2044 35 44.8 21.0 252.0 46.8%
2049 30 47.1 21.0 252.0 44.7%
2054 25 49.5 22.0 264.0 44.5%

 

経済ケースH (参考経済成長率▲0.4%ケース)

受取開始年 現在の年齢 現役世代手取収入(月額・万円) 標準世帯夫婦の
年金額(月額・万円)
年金金額
(年額・万円)
所得代替率
2019 60 34.7 20.6 247.2 59.4%
2024 55 37.1 21.0 252.0 56.8%
2029 50 38.2 20.6 247.2 54.0%
2034 45 39.5 20.0 240.0 50.7%
2039 40 40.8 19.6 235.2 48.1%
2044 35 42.3 19.3 231.6 45.6%
2049 30 43.8 19.1 229.2 43.5%
2054 25 45.3 19.0 228.0 41.9%

 

低成長の経済シナリオ(ケースG、ケースH)における若い世代の年金受給に関し、今回の法改正案による所得代替率、即ち、現役世代収入に対する年金受給水準のの改善効果が見て取れます。

 

シミュライズでは、引き続き年金制度に関する動向を追っていきたいと思います。

 

 

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