【年金】年金給付抑制の法改正が計画されています① - わたしたちに影響ってあるの?

2021/08/19

年金財源の健全化のための仕組み―マクロ経済スライド―を物価動向によらず2015年度より適用可能にし、年金給付を抑制、年金制度の維持を図ろうという法改正が進められています。ここでは、この内容についてみてみたいと思います。

 

 

年金抑制の方法-マクロ経済スライドって何だろう?


年金財政が100年持つことを目的に、2004年の小泉政権にて作成の平成16年年金制度改正で導入された、年金負担と給付のバランスを取る仕組みがマクロ経済スライドです。

 

年金には、物価が変動すると、毎年の給付額を調整する仕組み(物価が上昇すると年金が増え、物価下落時には年金が減る仕組み)が備わっていて、年金の価値を維持するようになっています。マクロ経済スライドは、物価が上昇した際に、物価の伸びよりも年金額の増加を抑える調整を行い、給付を減らす仕組みで、まさに年金財政安定の切り札でした。

 

なお、この調整率(スライド調整率という)は、年金全体の被保険者の減少率(年金負担者数の減少を反映する)と、平均余命の伸び(年金給付額増大を反映する)からはじかれますが、当初は、2025年度までは、0.9%程度になると見込まれていました。

 

ところが、マクロ経済スライドには、物価が上昇しないと発動できないというルールがあり、これまでのデフレ経済下で一度も使われていないのが実態です。今回の改革は、物価下落時にもこのルールを発動できるようにして、年金財政の安定を進めようとするものです。

 

 

わたしたちに影響ってあるの?


2004年の年金制度改革では、年金保険料に関し、2017年に国民年金保険料は16,900円、厚生年金保険料率は労使折半で18.3%(いずれも平成16年度価格)になるまで段階的に引き上げられることが決まり、これまで予定通り実施されています。

 

つまり、年金負担世代は予定通りの負担増を負ってきましたが、一方、年金受給世代は、物価が下落してきたため負担を負ってきておらず、現状は、将来の世代に負担のつけが回っている状態と言えます。
今回の改革は、現状の年金受給世代にも負担を求めて年金制度の維持を図ろうとするものと言えます。

 

実際に、厚生労働省公表の将来の厚生年金・国民年金の財政見通しによると、下記のように、本改革の効果が見て取れます。

経済前提 2014年の所得代替率 現行の仕組の場合の見通し 改革案の仕組の場合の見通し
厚生年金の所得代替率 給付水準調整の終了年度 厚生年金の所得代替率 給付水準調整の終了年度
ケースC 62.7% 50.8% 2043年 51.2% 2043年
ケースE 62.7% 50.2% 2044年 51.0% 2042年
ケースG 62.7% 39.5% 2072年 44.5% 2050年
ケースH 62.7%  2051年度に国民年金の積立金が無くなる 41.9% 2054年

(注1)国民年金及び厚生年金に係る 財政の現況及び見通しの関連試算 ー オプション試算結果 ーよりシミュライズまとめ
(注2)所得代替率とは、年金の給付水準を示す数値で、現役収入の何%にあたるかをさす。
(注3)経済前提は、厚生労働省による経済状況見通しのシナリオ。前回のシミュライズ記事をご参照。
(注4)ケースHの現行2051年度に国民年金の積立金がなくなり、完全な賦課方式へ移行。その後、保険料と国庫負担のみで可能な給付水準は35%~37%程度。

 

特に低成長が続くような経済状況見通しのケースにおいて(ケースG、ケースH) 、本改革は効果を表し、目標の50%を下回る所得代替率の改善に試算上も相応の役割を果たしていることが見て取れます。現状、年金保険料を負担している現役世代にとっては、今回の改革は、2014年度で62.7%と高い所得代替率を享受している受給世代に少しでも負担をしてもらうことにより、将来自分たちが年金受給者になる頃の年金財源のバランス健全化につながるものといえます。

 

なお、年金受取金額の将来見通しについては、続編記事をご覧ください
 年金給付抑制の法改正が計画されています② – わたしたちの年金受取額ってどうなるの?

シミュライズでは引続き動向を追っていきたいと思います。

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